パーティ・ナイト
「ただいま。」
「あ、兄ちゃんおかえり〜〜!
なあなあ、これ見てくれよ〜〜!」
「なんだ騒がしい。
お前ももう来期からはプロ選手になるんだからもう少しだな…。」
「あーあー、そんなこと今はいいから!
ほらっ!」
「何だ?」
由太郎が差し出したのは一枚の葉書だった。
そこに書かれている文字を見た魁は、目を見開いた。
「県対抗総力戦 第一期生の集い…?」
#########
「おーす!カイちゃん、ユタ〜!久しぶりじゃねえか!」
「うどん先輩〜っ!」
「由太郎くんは随分と成長したね。
もう魁くんと然程身長も変わらないようだ。」
1週間後、会場を訪れた村中兄弟は、早速懐かしい顔ぶれに出会った。
高校時代の友人達だ。
小饂飩勇は大学で物理学を専攻していて、大学院を受ける予定らしい。
緋慈華汰斗肢は現在新人作詞家として活躍している。
とめどなくあふれる言葉を有益に使っている、ということか…。
村中兄弟は、といえば兄の魁は既にプロ選手として3年目に入ろうという頃。
弟の由太郎も、兄と同じチームへの入団を決めた。
月日の流れをどこか実感しながら、青春時代(古)を懐かしく思い返したその時。
「おーいっ黒撰!」
「あ!さるの〜〜!!」
あの日々の中で最も大きな存在となった人物が現れた。
十二支高校の猿野天国だ。
着慣れないスーツに身を固めながらも、どこか年に似合わない大人びた雰囲気を身につけていた。
彼も、次の春からプロ野球選手となる。
そして、そのチームは大型新人が目白押しと噂されていた。
なぜなら。
「大声出すんじゃねえ、バカ猿。」
背後からやってきたのは彼の同級生で…そして春からもチームメイトである犬飼冥。
「お前な〜人と話してる最中に走り出すんじゃねえよ。
失礼っしょ?」
そして同学年で当時県内一の実力を誇っていた華武高校の4番、御柳芭唐。
彼も春から猿野・犬飼と同じプロ球団への入団を決めていた。
「いでででっ!!二人そろってこづくんじゃねえよ!」
「「てめーが悪い。」」
どうやら会話の途中で置いてきぼりをくったらしい二人はそろって天国の頭をぐりぐりと小突いていた。
この3人も高校時代はいがみ合いが多かったが、
今ではよき仲間よきライバルとしてお互いに認め合っていた。
そしてこの3人はこれからも同じチームとして野球をしていくのだろう。
「ははははっあいかわらずだな〜さるの!」
「笑うなって!つか止めろ!」
「そうだな…二人とも。」
魁が苦笑しつつ見かねて止めようとしたその時。
「あはは、二人ともそれくらいにしたら?」
「ふふ。仲がいいのは結構だけどね。ちょっと痛そうだよ?ねえ猿野くん?」
「そーだZe、それ以上バカになったら高い金出した球団に悪いじゃねえKa。」
「同感だな。」
「あ、先輩たち…兎丸も一緒か。」
「屑桐サンもっすか。」
現れたのは十二支高の卒業生 牛尾御門と虎鉄大河、兎丸比乃。
そして華武高の卒業生、屑桐無涯だった。
牛尾は現在家を継いだが、野球への情熱が冷め遣らぬままか、球団のスポンサーも勤めていた。
そして虎鉄は音大、兎丸は美大へとそれぞれの道を歩んでいた。
ちなみに虎鉄は歌手デビューを既に果たしており、大学に通いながらの忙しい歌手生活を送っていた。
そして屑桐無涯は、当然のごとく卒業後プロ球界に入った。
現在は先発投手の一人として活躍していた。
「久しぶりだね、皆。」
「牛尾先輩〜〜。」
「ちわっす…。」
助けてくれた先輩に、天国は昔のようになきつく。
流石に公共の場所だけに「明美」は現れなかったが…。
「相変わらずだな、お前らは。」
「どもっす、屑桐さん。」
御柳は御柳で高校時代の頭の上がらなかった先輩に挨拶をする。
魁も、同年代のライバルの登場に挨拶をと顔を見せる。
「ご無沙汰しているな、屑桐殿。」
「ああ。」
互いに言葉は少ないが、来年度への抱負を胸にライバルに向き合う。
そんなちょっとシリアスな雰囲気の中で。
一際つやめいた…と、いうか黄色い声が聞こえてきた。
「きゃあっ天国ちゃあんv元気ぃ?!」
「こら兄貴ぃ!てめっいきなり何してやがる!!」
ぐわばっとシリアスをしていた二人の横を通り過ぎた影は、天国に一直線に向かっていった。
「どわああっ!!ね、姐さん?!」
「ああんv相変わらず可愛いv」
「はーなーれーろっ!!」
「うっわあセブンブリッジのお姐さん!」
「やあ中宮くんたち。」
「はあい牛尾君v屑桐君や村中くんも元気みたいね〜〜v
皆一段と男前になっちゃってv」
全く動じないで挨拶を交わす牛尾はさすがと言えよう。
知り合ってから3年、彼女…いや、彼の行動パターンにようやく慣れてきたほかの面々でも、なかなか落ち着かないのだから。
そんな兄を、弟影州は止めようとするがいかんせんキャラの弱さから。
止めきれずにいるようだ。(酷)
ちなみにすぐ傍にいた犬飼と御柳は。
助けたいのは山々だが、次に自分に抱きつかれるのも嫌なので葛藤しまくっていた。
「あ、あの姐さんもう離して…。」
「あん、てんごくちゃんてばつれないのねv」
そういいながらしぶしぶ手を放す紅印。
その格好は、双子そろってかなり派手だった。
方向性は違ってはいたが…。
ちなみに中宮兄弟は現在大学野球部で活躍中だった。
そして鳥居剣菱は…というと、トレーナーになるべく同大学で勉学にいそしんでいる。
そんな埼玉勢がわいわいと騒ぐ中。
更なる騒ぎの元が、彼らに近づいていた。
「お〜い、ヨミ〜〜お前またあいつんとこ絡みににいくんかいな。」
「俺ノ勝手ダ。鵙来、文句ヲ言ウナラ着イテクル必要ハナイゾ。」
「せやけどなあ。お前いつまでたっても口悪いんやからまたケンカなるやないか。」
「ダカラドウシタ。」
「ケンカする気まんまんやんけ…。」
「放ッテオケ。」
猿野天国の兄・雉子村黄泉。
日本が誇る若きメジャーリーガーだ。
彼は今、弟の下に向かっていた。
#####
「天国ィ!!」
「あ、兄貴?!」
突然、元埼玉選抜の面々の前に現れた雉子村黄泉は鬼の形相でつかつかと弟・猿野天国の前まで来ると、
何も言わず弟の腕をつかみ、至近距離まで詰め寄った。
「話ガアル。来イ。」
有無を言わせない強引な姿に、一同は一瞬動く事を忘れたように固まった。
「お、おい兄貴…?!」
その隙にと黄泉は天国をそのまま連れ出そうとした
「あ…。」
「は〜、追い付いた。速いわヨミ…って、おい!?」
友人に遅れてたどりついた鵙来の横を、黄泉は天国を連れてそのまま通り過ぎて行った。
「あっちゃ〜せっかく着いて来たのに。ほんませっかちなん変わらへんなあ。」「鵙来殿!」
非常事態に呑気に呟く鵙来に(実はチームメイトの)魁が気付く。
「魁〜久しぶりやな…「さっき会っただろう!それより雉子村は一体…?」
マイペースな鵙来を魁は早々に一喝し、雉子村の剣幕の理由を問う。
鵙来はなんやノリ悪いなあとぶつくさ言い始めたが、周りにいた他の埼玉選抜の面々も険しい表情を見せ始めたので、観念する事にした。
「わ〜かったっちゅうねん!ゆうてもオレもよう知らんで?
アマクニがメジャー蹴ったとかなんとかオヤジさんと話しとったんは聞いたけど…。」
「…なんだと…?猿野がか?」
「んな話あいつは全然…。おい、犬飼お前は聞いてっか?」
「いや…。何も。」
「鵙来くんそれは本当かい?」
「ああ、多分な。」
牛尾は驚いた顔で…天国に一番近しいであろう彼に聞いた。
「村中くん、君は聞いて…あれ?」
牛尾が視線を移したとき、既に魁は天国の後を追っていた。
############
「一体何のつもりだよ、こんなとこまでつれて来て…。」
天国の問いに、黄泉は背を向けたまま、
吐き出すように言った。
「…何故蹴ッタ…?」
「え…?」
グイッ
天国が反応した瞬間、黄泉は振り返ると天国のネクタイを掴みあげると、
激しい眼差しをぶつけた。
「貴様ニモ…メジャーカラノオファーガアッタンダロウ!
何故チャンスヲ棒ニ降ッタンダ?!」
「ああ…その事か。」
天国はようやく合点がいったという表情をした。
確かに、極秘のうちに天国にもアメリカのチームからの打診があった。
だが、それは現在の天国にとって望むことではなかった。
兄や父に、アメリカのみに心酔しているなら、断るなどあってはならないことだろう。
だから黄泉がこのように怒るのは分かっていた。
だけど、天国は黄泉ではない。
「ソノ事ダト?!
貴様、アメリカデ野球デキル事ガ、ドレダケ重要ナノカワカッテイナイノカ?!」
「分かってるさ。だからだよ。」
黄泉は天国の言葉に、剣幕を沈めた。
「ダカラ…何ダトイウンダ?」
問われた天国は、静かな表情で…真剣なまなざしで答えた。
「オレは、日本で野球がしたい。
まだいくらでも勝負したい奴らがいる。
一緒に勝ちたい仲間がいる。
一緒にいたい人がいる…だから。」
「…ソンナ甘ッタルイ理由デ…カ?」
黄泉の言葉に、天国は少し苦笑する。
昔ならば、先ほどの黄泉にも負けない剣幕で叫んでいただろう。
だが、天国は仕方ないな…といった風に。
言った。
「そうだな、アンタにとっちゃ甘い理由だよ。
だけどオレにとっちゃ大事なことなんだ。」
大事な仲間がいる。
大事なライバルがいる。
大事な人がいる。
「オレにとっての野球ってのは、日本にいる仲間との間にあるもんなんだよ。
それがオレの…オレ自身の野球なんだ。
それを否定することは、アンタでもオヤジでもできねーよ。」
天国は確固たる意志を伝えた。
「…否定デキナイ…カ。
言ウヨウニナッタジャナイカ…?」
「だろ?」
天国はかすかに微笑んだ。
だが、黄泉は笑い返すことができなかった。
「…ケルナ…ッ。」
「ふざけるな!!」
「あ…兄貴ッ?!」
再度激昂する兄の腕に、天国はそのままつかまった。
黄泉はそのまま天国の身体を腕の中に引き寄せた。
思いのたけをこめて。
黄泉は望んでいたのだ。
天国と…最愛の存在と共に…と。
それが黄泉の望む野球の形だったのに。
「俺が…どれだけお前を待っていたと思ってるんだ。
今度こそ一緒に居れると思ったのに…あの頃みたいに…っ。」
「ちょ…兄貴っ…離して…。」
兄の言うことを理解する余裕もなく、黄泉の行動は天国を戸惑わせる。
何故?
「天国…俺はずっと…っ!」
天国の疑問への答えを黄泉が口にしようとした、その時。
「猿野殿!!」
「…魁さん!!」
現れたのは、鵙来の説明を聞いて、いちはやく飛び出した魁だった。
魁は、大切な存在が(兄とはいえ)他の男に抱きしめられているのを見て
怒りを感じるのを抑えられなかった。
「何をしている、雉子村!」
「…確か村中だったな…今大事な話をしている。
ジャマだ。」
「オレにはもう話すことはねえよ!いいから離せって!」
グッ
「あっ…。」
天国は黄泉の腕を振り解き、魁のもとに走り寄った。
「天国…。」
「もう説明は終わっただろ?
オレは日本にいて…日本の皆と野球がしたい。
理由はそれだけだ。」
「…そうか…。
今は…それが答えなんだな…。」
黄泉は天国の気持ちが自分から離れたところで確実に根付いていたのを、今更ながらに実感した。
だが、諦めるわけにはいかない。
今は無理でも…。
黄泉は、寂しさの中決意を新たにした。
「…分かった。
まあ…もうしばらく成長を待たないとお前はアメリカでは通用しないだろうしな。」
それは負け惜しみにも似た、だが黄泉なりの励ましの言葉だった。
「うるせ。クソ兄貴。」
天国もそれは理解できたから…笑って毒づいた。
「じゃあまたな。」
「アア…。」
黄泉は踵を返すと、その場を去っていった。
それを見送ると、天国はふう、と一息ついた。
「心配かけてすみません、魁さ…?」
謝罪の言葉を聞き終わる前に…魁は天国を背中から抱きしめる。
「…よかった…無事であったな…。」
「…はい、大丈夫ッすよ。」
天国は心配してくれた…恋人のぬくもりをゆっくりと受け入れた。
魁は天国の身体を抱きしめながら…質問した。
「メジャーリーグからの誘いを…本当に蹴ったのか?」
「…はい。」
やっぱり知ってしまったかと、天国は思ったが。
いずれはどこかで知れるだろう。
それならば、今と天国は自分の気持ちを語った。
兄に言ったことと同じ事を。
魁はその言葉を聞いて、柔らかく微笑んだ。
「拙者は…猿野殿の…天国の決断を嬉しく思う。
まだ傍にいれるのだから…な。」
「はい。傍に…います。」
天国も微笑み。
二人の影がゆっくりと近づいた…。
が。
「兄ちゃ〜〜〜ん!!」
「ここにいたか、バカ猿。」
「大丈夫かい?!雉子村君になにかされなかったかい?!」
「あのアメリカ野郎どこ行きやがった?!」
「猿野〜〜まさかピーなことされてねえだろうなあ?!」
「あらやだっあんなことやこんなこともされちゃったのお?!お猿ちゃん!」
「言ってねえだろ!アホ兄貴!」
「殴られたりしてねえだろうNa?!」
「ああ、猿野くん。実の兄に手を上げられて君の華麗で正直で鋭敏なプレイに支障をきたすようなことにはなってないだろうね?!」
「猿野 心配 無事?」
「どうやら無事なようングね…。」
「安心したぞ、猿野。」
「あれ〜〜でもほっぺが赤い気?(・0・;)」
「にいちゃんも赤いぞ?どうかしたのか?」
「「………。」」
『『『『『『『『『『『『『『『村中…?』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』
大勢の視線が一転、魁に集中したその瞬間。
「おやおや、こんなところに集まっていたのかい?」
「白雪監督!」
天の助けとばかりに現れたのは、第1回目の埼玉選抜チームの監督、白雪静山。
やはりというか、あの当時のように線の細い男性で、ほとんど変わりがないのはさすがというか…。
「さ、もう会場に戻ろうか。
パーティが始まるよ?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
パーティの夜は更けていく。
紡いできた思い出と、これからも紡いでいく思いに
彼らの未来に。
幸運と幸福を望みながら。
end
やっぱり空中分解しました。
途中なんかシリアスですね…。
魁さんが無理矢理に恋人みたいな感じになってすみません…!!
ぴーく様、長い間お待たせして申し訳ありませんでした!!
戻る